本展では、外界で生じる自然現象と人間の内面に生じる心理的現象を主題とし、「現象」と「魔」の対比を通じて、画家としての新たな表現を模索しました。
私が「魔」の生き物を描こうと思った理由は、これまで龍や鳳凰などの縁起の良い生き物を多く描いてきたなかで、陰陽が表裏一体であるように、あえて「魔」にも踏み込まなければ、画家として本質的なものには迫れないのではないかと考えたためです。しかし、私にとっての「魔」は、決して醜さや不浄さを表すものではなく、人間の内面に渦巻く、不可解でありながら魅惑的な力です。
今回は、その「魔」に対応させる形で、外界で実際に発生する自然現象を描き、内と外の現象が交差するような展覧会を目指しました。
まず、陰陽五行説における「木火土金水」といった自然界の要素は、木=風、火=炎というようにそれぞれが自然現象とも対応しています。F130号の連作では、龍や鳳凰などを自然現象のメタファーとして描いています。
古来、龍や鳳凰といった想像上の動物は、例えば龍は水や風、鳳凰は炎や太陽といった自然現象のシンボルとしての役割も担ってきました。
一方、ヤマタノオロチやヌエといった、しばしば英雄に退治される「魔」の存在は、人間が混沌(カオス)を秩序(ロゴス)に置き換えようとする試みを象徴しています。龍や鳳凰が生物の最も優れた要素を集約し、畏敬の対象とされてきた一方、これらの魔物は混沌の体現であり、言い換えれば物質世界や精神世界における未整理なエネルギーの表象です。
過去の画家たちがこうした存在を描くことは、外界に潜む不可視の存在に形を与えることであると同時に、内面的な名状し難い混沌を映し出す行為だったと思います。これらの魔物は、実在しないが故に、より一層その象徴性を持ち、エネルギーの集約点となりうるのではないでしょうか。
本展覧会では、自然現象と心理的現象という一見相反する主題を取り扱いながら、それらが絵画を通じて呼応し合うことを目指しています。
上野 裕二郎
【会期】2024年12月7日(土)~12月21日(土)
【時間】12:00~18:00※日曜・月曜休廊 レセプションパーティ: 12月7日(土)16:00~19:00
【場所】MU GALLERY
東京都品川区東品川1-32-8 TERADA ART COMPLEX Ⅱ 2F
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